イラスト:MR004+ta_mama/文:らせん真理花
1月1日、一年の始まり始まり。
いつもの集合場所にはすでに弟子三忍が集まっているが、師の姿は見えない。集合時間十分前を基本としている師には珍しく、三人は顔を見合わせた。
待つこと三分、遠くから砂塵がものすごい勢いでこちらに向かってくると思えば、その砂塵の主はあっという間に三人の前に姿を現す。
「おまえら!あけましておめでとう!!今年も青春全開だ!!!」
ビシリとナイスガイポーズを決め、木の葉の里の青き野獣マイト・ガイは弟子達と挨拶を酌み交わした。おっと、酌み交わすではなくて、くみ交わす、である。
今日は一月一日、元旦。一年が始まる日であり、また一年でもっともおめでたい日である。
初っぱなからガイはガイらしい。
「おはようございますガイ先生!!今年もよろしくお願いします!!!!!」
「おめでとうございま〜〜す。」
「ふん、今日という日に限って遅刻してくるとわな。」
三人の弟子達もそれぞれマイペースで三人らしい。
「すまないな!!!大切な用事を済ませてからこちらに向かったのだ。時間に余裕を持って行動したつもりだったが、俺としたことが一生の不覚!!!!許してくれ!!!!」
「とんでもありません!!!ガイ先生が大切なお使いがあったとはつゆ知らず僕がみんなで初詣に行きたいなんて言い出したりしたのに」
「なにをいうんだリーよ!!俺は弟子達と初詣に行き餅とおせちを食うことを夢に描いていたのだ!!!」
「うう、ガイ先生。ガイせんせ〜〜〜い!!!!」
「リー!!!!」
「は〜〜い、そこまで!二人とも新しい年になったんだから、少しは落ち着いてください。」
「まったくもって去年と代わりがないじゃないか。」
「ま、去年と変わらず元気でいられるって証拠かもね。」
「はっはっは、テンテン、いいことをいうではないか!!」
「さ、リーもネジも、そろってよ。それじゃあ」
「「「ガイ先生お誕生日おめでとうございま〜〜す(おめでとう)!!!!」」」
元気のいい二人と照れくさそうな一人が持っていた包みを差し出す。
ガイは一瞬それがなにであるかわからず瞳目した。だが、その意味にようやく気がついた時の破顔ようといったら。
忍であるガイはいついかなる時でも任務に就いていた。それは誕生日ででもかわりはない。
正直、誕生日を祝られるということも数えるほどもない。だが、この年になっても年を食らう事をいわられる嬉しさ、しかも、長年持ちたいと願っていた弟子からの祝辞はかけがえもない。
「おまえ達、 ありがとう」
一人一人丁寧に礼を述べ、プレゼントを受け取る。その笑顔は年端もいかぬ少年のようであった。
「では、初詣に参りましょう!」
リーが元気よく挙手する。
「まて、実はな、その前に一つ済ませておかねばならない勝負がある。」
いつになく真剣なガイに三人は不思議そうに顔を見合わせた。
某ビルの屋上。そこが毎年繰り広げられる勝負の舞台。
そして、ガイにとってはその年を占う非常に重大な場所でもある。
そこに四人で向かえば、その場にいたのは、なんと、師匠であるガイのライバル畑カカシであった。これには弟子三人も驚いた。普段からカカシを待ち伏せしては勝負を挑んでいるのはガイの方であるが、今日はカカシの方がガイを待っている。
「遅いよ。待ちくたびれちゃったよ。」
パタリと愛読書を閉じる。肩にはブサイクな(失礼)小型犬を乗せている。
「いつもは俺の方が待たされているのだ。10年に10分くらいは待ったらどうだ。カカシよ。」
「俺は別に待ってくれなんていった覚えはないけど。さ、はやく勝負済ませちゃいましょ。」
気のない返事のようだが、いつもと目つきが違う。どうやらやる気のようだ。その言葉にふとガイは不適な笑みを浮かべた。
ガイも口寄せで亀を呼びだした。両者、ビルの端と端にいる間合いを積めていく。
その屋上の向かいの貯水タンクの周りで、弟子三人はいつにない二人の姿を固唾を飲んで見守った。
里屈指の実力者二人が互いに気を張りつめる。それだけでこうも空気が違うのか。
まるで任務時のような鬼気迫るガイの表情。だがカカシも負けてはいない。大部分を隠していながらも形の良い瞳をつり上げ、獲物を狩るがごとくガイを見据える。
両者全く系統の違う顔つきが向かい合う。一触即発。
「今年はあの子達が立会人なんだ?」
「うむ。ギャラリーは賑やかな方がいいからな。」
「それじゃあ、はじめるか」
二人が臨戦態勢にはいるようにかがみ込む。
ジリ ジリリ
「「いっせーーの せ!!」」
ペリ
互いの顔面に細長い紙が張り出される。
カカシの鼻先には「吉」。
そして、ガイの鼻先には「小吉」。
「いよっっっっしゃーーー!!!!勝ったぞ!!!!!」
「ありゃりゃ、今年は負けちゃったみたいね。」
ガイの喜びようとは別にカカシはひょうひょうさを取り戻す。
目の前に張り出したものは、そう「おみくじ」。
毎年この二人は一年の初めとして「どちらがおみくじが良かったか」を競っている。
ガイにしてみればそれも勝負。カカシにしてみれば面倒ごと一回分消費。何とも平和かつくだらぬ勝負である。だがなによりもくだらぬからこそ燃える男達もいるのだ。
「んじゃ、今年は俺の負けって事で。また来年。これにてドロン。」
そういった瞬間には、カカシの姿は消えていた。
真剣勝負(端から見たらくだらぬの一言だが)の後に残る清々しさよ。
「さあおまえ達、お参りへ行くぞ!!!」
ナイスガイポーズを決めるガイの姿も一段と輝いて見えた。
余談だが、弟子三人がくれたプレゼントはすべてお正月にちなんだものであり、正直、『プレゼントとしてそれはどうよ?』的な代物ばかりである。
しかし、時期が過ぎても、ガイの部屋の一角にはいつまでもお正月飾りが飾られている。
これから毎年増えることだろう。